村上世彰に懲役2年の実刑判決

村上世彰に懲役2年の実刑判決

東京地裁は19日、証券取引法違反(インサイダー取引)の容疑で起訴されていた村上世彰に、懲役2年、罰金300万円、追徴金11億4900万円の実刑判決を言い渡しました。

判決では、「村上世彰はライブドアのニッポン放送株大量取得の情報を得ていたにもかかわらず、ニッポン放送株を追加取得し30億円あまりの利益を生み出した」とゆう、検察の主張を認めた形です。

これに関連する記事をいくつか読んで、事件の概要や裁判の争点が理解出来たので自分なりにまとめてみます。おおまかな裁判の争点や事件の経緯は、以下の保田隆明の記事が多いに参考になります。

インサイダー取引

まず、インサイダー取引、証券取引法167条違反とはどうゆうものか詳しく知りたいので条文を読んでみた。読み解くのに苦労しましたが、意訳してみると以下のようになります。

公開買付者関係者であつて、
株券等の公開買付者の公開買付け等の実施に関する事実、
又は公開買付け等の中止に関する事実を知つたものは、
その事実の公表がされた後でなければ、
公開買付けの実施に関する事実に係る場合にあつてはその株券等に係る買付けをしてはならず、
公開買付けの中止に関する事実に係る場合にあつてはその株券等に係る売付けをしてはならない。
公開買付者関係者でなくなつた後1年以内のものについても、同様とする。

村上世彰の容疑を、上記証券取引法167条の意訳に即してみると、
「株券等(ニッポン放送株)の公開買付者(ライブドア)の公開買付け等(大量取得)の実施に関する事実を知つたものは、その事実が公表された後でなければ、それに係る場合にその株券等に係る買付けをしてはならない。」
に違反したとゆう事になる。

ちなみにライブドアが行ったのは公開買付ではなく、時間外取引での大量取得だけど、株券等所有割合が5%以上だったので公開買付等に含まれたようだ。今では、法律が変わって、5%以上を取得する場合は必ず公開買付をしなければならない。

次の各号に掲げる者(以下この条において「公開買付者等関係者」という。)であつて、第27条の2第1項に規定する株券等で証券取引所に上場されているもの、店頭売買有価証券若しくは取扱有価証券に該当するもの(以下この条において「上場等株券等」という。)の同項に規定する公開買付け(同項本文の規定の適用を受ける場合に限る。)若しくはこれに準ずる行為として政令で定めるもの又は上場株券等の第27条の22の2第1項に規定する公開買付け(以下この条において「公開買付け等」という。)をする者(以下この条において「公開買付者等」という。)の公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実の公表がされた後でなければ、公開買付け等の実施に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る上場等株券等又は上場株券等の発行者である会社の発行する株券若しくは新株予約権付社債券その他の政令で定める有価証券(以下この条において「特定株券等」という。)又は当該特定株券等に係るオプションを表示する第2条第1項第10号の2に掲げる有価証券その他の政令で定める有価証券(以下この項において「関連株券等」という。)に係る買付け等(特定株券等又は関連株券等(以下この条において「株券等」という。)の買付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)をしてはならず、公開買付け等の中止に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る株券等に係る売付け等(株券等の売付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)をしてはならない。当該公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実を次の各号に定めるところにより知つた公開買付者等関係者であつて、当該各号に掲げる公開買付者等関係者でなくなつた後1年以内のものについても、同様とする。

引用元:証券取引法

裁判の争点

遅くとも2004年11月8日に行われたライブドアと村上世彰とのミーティングで、ライブドア側はニッポン放送の株を大量取得する意向がある事を村上に伝え、その情報から利益を得ようと村上がニッポン放送の株式を追加に取得した。と言うのが検察側の主張。これに弁護側は対立。

裁判の争点となったのは、だいたい以下の3点のようだ。

  • 11月8日の時点で誰がライブドアの公開買い付け等の実施に関する事実を決定したのか
  • 11月8日の時点でライブドアの公開買い付け等の実施に関する決定は、客観的にみて実現可能であったか
  • 村上世彰はライブドアの公開買い付け等の実施に関する事実を知っていたかどうか > 「遅くとも11月8日のミーティング時点で、ライブドアがニッポン放送の株を大量取得するという決定をし、それを村上氏に伝達した。その情報から不徳に利益を得ようとして、村上氏は大量のニッポン放送株を追加取得した」と主張する検察側。これに対し弁護側が真っ向から対立しているのだ。 > >  しかし、どのようにミーティングが行われたのかは、証人尋問、被告人尋問に頼らざるを得ず、「言った言わない」の水掛け論的なものにならざるを得ない。もし決定や伝達があったとしても、それは客観的に見て実現する可能性があったのか、そこも重要な争点となる。お金がなければ株の大量取得は出来ない。当時のライブドアが多額の資金調達が可能だったことを、客観的に判断できたかが重要となる。 > > Business Media 誠:短期集中連載・保田隆明の“村上裁判傍聴記”:第1回・村上ファンドが行ったのは、本当にインサイダー取引だったのか?

    誰がライブドアの公開買い付け等の実施に関する事実を決定したのか

争点の一つ目「誰がライブドアの公開買い付け等の実施に関する事実を決定したのか」は、以前から村上がニッポン放送株の買い付けに際してコンタクトをとっていた堀江・宮内の意思決定だけで、ライブドア全体の業務決定と言えるのかどうかと言うことです。ライブドアの業務の決定があって実施に関する事実が成立するわけで、ほんとうにその決定が11月8日の時点までにあったのか、とゆう問題。

判決で裁判官は堀江・宮内を「業務執行を決定する機関」であり、その意思決定は会社の決定だと判断しています。

「業務執行を決定する機関」は、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足り、本件では、ライブドアの堀江、宮内がそのような機関であり、両者一致で、公開買付け等を会社の業務として行うという意思を決定している以上、機関決定としては十分である、と判断しています。

引用元:村上被告に懲役2年、追徴金11億4900万円・東京地裁 弁護士 落合洋司 (東京弁護士会) の 「日々是好日」

ライブドアの公開買い付けの実施に関する決定は、客観的にみて実現可能であったか

争点の二つ目、「ライブドアの公開買い付け等の実施に関する決定は、客観的にみて実現可能であったか」は、ライブドアの公開買付け等の実施に関する決定が、実現可能性が低く、堀江や宮内の夢物語や絵空事なら、それは決定とは言え無いではないかとゆう問題。

この時点でのライブドアの資金力は低く、ニッポン放送株を取得するのは不可能に思えたとゆう村上・弁護側の主張ですが、結果としてライブドアはニッポン放送株を大量取得し、そのMSCBを使った資金調達は市場関係者にインパクトを与えたとはいえ、結果的に決定は実現されたので、裁判所はその村上・弁護側の主張を一蹴したようです。

裁判所は、そういった弁護人の主張を完全に一蹴していて、上記のような決定については、機関において公開買付け等の実現を意図して行ったことを要するが、それで足り、実現可能性が全くない場合は除かれるが、あれば足り、その高低は問題にならない、としています。

 ただ、この点については、実現可能性が全くないわけではないが非常に低い場合、かなり低い場合はどうか、という問題が残るでしょう。裁判所は、高低の問題は、あくまで情状で評価されるに過ぎない、と考えているようですが、今後、上訴審で法律解釈の問題として争われる可能性があるように感じます。

引用元:村上被告に懲役2年、追徴金11億4900万円・東京地裁 弁護士 落合洋司 (東京弁護士会) の 「日々是好日」

村上世彰はライブドアの公開買い付け等の実施に関する事実を知っていたかどうか

争点の三つ目、「村上世彰はライブドアの公開買い付け等の実施に関する事実を知っていたかどうか」は、両方の知った、知らないの水掛け論になるのですが、裁判所は検察側のストーリーを全面的に認めた形です。

これには、村上世彰がインサイダーを認めた記者会見を開いたのに、裁判では一転してインサイダーを認めなかった事による、信用の問題も関係があるように思われます。記者会見についての村上側の主張は、村上ファンドをその他のヘッジファンドから守るために記者会見ではウソを付き、事態を収束させる必要があったためとしています。

焦点となっている11月8日の会議について、裁判所は、会議が開かれた経緯(9月15日の会議で村上被告人からの働きかけがあり、その後、ライブドア側では村上ファンド側と頻繁に連絡を取り合いながら検討、準備を進め、10月20日ころまでには資金調達の一応の目処がつき、村上ファンド側に会議の開催を求めた)を認定した上で、

『11月8日会議では、ライブドア側から、被告人ら村上ファンド側に対し、ニッポン放送株の3分の1以上を買い集める旨、明確に意思表明があり、かつ、そのための資金調達の見通しとして、300億円を外資系金融機関からの融資等により調達できる見込みであるという内容が説明されたことに疑いはない。』

と断定しています。

引用元:村上被告に懲役2年、追徴金11億4900万円・東京地裁 弁護士 落合洋司 (東京弁護士会) の 「日々是好日」
引用文中『』は、判決要旨より

市場への影響

弁護側の主張を一蹴し検察側のストーリーが全面的に採用され、ライブドア事件と同様、国策捜査だとゆう意見も多いです。

また、裁判所の「ファンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前と被告は言うが、このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない」とゆう文面に対して、反発の声もあります。

村上ファンドのありようにも判決は言及する。
「『もの言う株主』として社会の耳目を集める一方、裏では犯罪を犯していた」「ファンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前と被告は言うが、このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない」

引用元:asahi.com:「弁解に終始し、反省は皆無」 村上前代表に実刑判決 - 社会

僕自身は、国策捜査かどうかの判断もつかないし、判決文の一部だけを取り上げ、文脈に則さず批判するような事もしませんが、そのような嫌疑をかけられている司法や検察に対して一抹の不安を感じます。日興コーディアル事件でも騒ぎがありましたし、市場における司法への信頼は揺らいでいるようです。

争点になった実現可能性について、今回の判決は、最高裁の判例よりも踏み込んだ形になっているようで、その点でも市場への影響が予想されるようです。

実現可能性が全くない場合は除かれるが、あれば足り、その高低は問題にならない、とまで言い切ってしまっていて、これが、従来の最高裁判例による「確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しない」を、さらに犯罪が成立しやすい方向に拡張したものかどうかは微妙ですが、最高裁が明確に踏み込んでいなかったところまで踏み込んでいるのは確かであり、今後の経済取引への影響には無視しがたいものがあると思います。

引用元:村上ファンド事件1審判決・残る法律上の問題点(日経産業新聞の記事に関連して)

ライブドア事件以来、市場の雰囲気は司法への警戒を強めて硬直化している状態にあるのでしょうか。いつまでもこの硬直が市場を支配するとゆう事はないでしょうから、数年後かにはなにかバックラッシュのようなものが起こるだろうと思います。それがどの様な形になるかは僕には検討もつきませんが、日本に於いて悪い形で起きなければ良いのですが。

参照・参考

裁判の争点やおおまかな事件の経緯。

村上実刑判決について

photo by Tracy O