今回は『レトリック論を学ぶ人のために』の構成についての感想と、興味深かった論旨「概念メタファー」と「関連性理論」について自分なりにまとめを書いてみる。
と、思ったら「概念メタファー」だけでかなり長くなったので、「関連性理論」については次回にまとめる。
前回は本の概要について書いた。
関連過去記事:菅野 盾樹『レトリック論を学ぶ人のために』その1
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本の構成・レトリック論
まず、この本は構成が素晴らしい。そしてその構成が編者が想定したこの本の目的を表してる。
その目的はレトリックを総合分野にする、レトリックで人間と記号を捉える。もしくはレトリックで世界を脱構築する。といった類のもの。
つまり学問の一分野の修辞学としてのレトリックから、人間や記号を総合的に問題にする理論としてのレトリック論(rhetorical studies)への展開を意図している。
各部各章で語られるテーマの選び方は、それぞれの論旨を比べた時のズレが、結果的におおきな枠組のレトリック論を照らし出す。まさに構成自体がレトリック的。
また、各部各章で語られるテーマの語られ方も全体としては比較的平易で、「レトリックって何?」とゆう僕のような人間でもすっと入っていけた。ただ、第4部、5部は用語が難しい。
概念メタファー
個人的におもしろかったのは、3章・4章の「認知意味論」「概念メタファー」と6章の「関連性理論」。1章のレトリックの歴史も読みやすく、知識の勉強になった。ここでは「認知意味論」「概念メタファー」「関連性理論」についてまとめておく。
認知意味論・概念メタファー
従来はただ単純に言葉のあやだと思われてきた陰喩や換喩などの比喩表現。認知意味論とは、その比喩表現の見方・捉え方を変えた認知言語学の理論。第一人者はジョージ・レイコフ (George Lakoff)。このレイコフとマーク・ジョンソンの共著『レトリックと人生』が、認知意味論に関する主著とされているようだ。
概念メタファーは心の中に存在している比喩(メタファー)の事。レイコフとジョンソンはメタファーが言葉遣いのレベルではなく、認識や概念のようなレベル、つまり心の中のレベルで生じているものだと考えた。概念メタファーは日常の言語生活を支配し、それは言語のいたる所に表れる。
認知意味論の始祖とも言えるレイコフとジョンソンは、陰喩や換喩が言葉遣いの上だけの問題ではなく、むしろ私たちの認識や概念という心的なレベルで生じていると考えた。彼らはそのように、心の中に存在している比喩(メタファー)を「概念メタファー」(conceptual metaphor) と名付けた。さらに多くの日常的言語表現が概念メタファーに基づいて生み出されているため、一見すると字義どおりと思われる表現であっても、実は「比喩的」であることが珍しくないと彼らは指摘したのである。
引用元:『レトリック論を学ぶ人のために』 p56
概念メタファーの例
概念メタファーの例と、概念メタファーが日常会話に表れる例を以下に示す。(引用元:『レトリック論を学ぶ人のために』 P57~59 抜粋 )
概念メタファー自体はことわざに少し似ている。
- 時間はお金である (Time is Money)
- You’re wasting my time (君は僕の時間を無駄遣いしている)
- That flat tire cost me an hour (パンクしたタイヤを直すのに1時間かかった)
- 恋愛は旅である (Love is Journey)
- Our marriage is on the rocks (私たちの結婚は暗礁にのりあげている)
- This relationship is a dead-end street (この関係は行き止まりだ)
- 考えは食べ物である (Ideas are Food)
- I just cant’t swallow that claim (その主張は鵜呑みに出来ない)
- There are too many facts here for me to digest them all (事実が多すぎて消化できない)
- 楽しいは上、悲しいは下 (Happy is Up , Sad is Down)
- 気分は上々
- 天にも昇る気持ち
- 落ち込む
- 落胆する
- 多い事は上、少ない事は下 (More is Up , Less is Down)
- 物価が上昇する
- 高齢化・低年齢化
-
支配する事は上、支配される事は下 (Having control is Up , Being subject to control is Down )
- 上司・部下
- お上
- 下々の者
概念メタファーの種類
上記の例で示した概念メタファーは、大きく二つの種類に分ける事が出来る。
「時間はお金である」「恋愛は旅である」「考えは食べ物である」のような概念メタファーを、「構造の比喩」と呼ぶ。「旅」と「恋愛」の間に「始まりと終わりがある。困難を克服し協調しながら目的地に向かう」などの構造的な類似性がある。
上下・前後などの空間的位置づけに基づく概念メタファーを「方向づけの比喩」と呼ぶ。「方向づけの比喩」は、類似性よりも身体的空間的経験と感情・心理・社会的経験などとの共起性に由来する。
この経験に根ざした概念メタファーを更に推し勧めた形の、乳幼児の原初的体験で共起され形成される概念メタファーのような比喩をプライマリメタファーと呼ぶ(提唱者 Joseph Harold Grady)。
個人的な感覚では、プライマリーメタファーは地に足をつけた概念メタファーといった面持ち。
概念メタファーについて個人的雑感
心の中に抽象化された比喩(概念メタファー)があり、それが具現化されて言葉になるとゆう理論。実は僕はそれと同じような考えを、漠然とながら持っていた。例え認知意味論を知らなくても、みんなも同じような感覚を持っているのではないだろうか?
金原ひとみ『アッシュベイビー』 の感想を書いた時に、僕はこの金原ひとみの本には「音」の感覚が抜け落ちていて、その感覚の欠如は作中に「昆虫」が登場しないのと少なからず関係があるのかもしれないと書いた。
関連過去記事:金原ひとみ 『アッシュベイビー』 の感想 « Retujyou どうにもならない劣情の種子を植え付けられたばかりに
今なら、この昆虫と音の関係は概念メタファーだと言える。たぶん。
- 音(楽器、聴覚)は虫(昆虫)である
- 鈴虫
- コオロギの合唱
そして僕が金原ひとみに感じた欠如は、音の感覚の欠如ではなく、この「音は虫である」とゆう概念メタファーの欠如だったのではないか。と今では思う。金原ひとみに「音は虫である」とゆう概念メタファーが欠如していたから、その作中に「音は虫」を具現化した言葉が表れず、僕は漠然と音の欠如を感じたのではないかと。
ただ、概念メタファーに個体差が或るのか無いのかは疑問だ。そうだともそうでないとも書かれていない。
とりあえず、『レトリック論を学ぶ人のために』の3章を書いていた、谷口一美の認知言語学入門書を読もうと思う。谷口一美は認知言語学者で期待の若手だそうだ。谷口一美の文章はずごく読みやすく、頭にすっと入って来た。
Amazon.co.jp: 認知言語学—学びのエクササイズ (学びのエクササイズ): 谷口 一美: 本
関連・参照・参考
『レトリック論を学ぶ人のために』の概要と、編者 菅野盾樹 のblogの紹介
関連過去記事:菅野 盾樹『レトリック論を学ぶ人のために』その1
金原ひとみ 『アッシュベイビー』 の感想 「音」「昆虫」
関連過去記事:金原ひとみ 『アッシュベイビー』 の感想 « Retujyou どうにもならない劣情の種子を植え付けられたばかりに
3章を書いていた、谷口一美の認知言語学入門書
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認知意味論第一人者はジョージ・レイコフとマーク・ジョンソンの共著
『レトリックと人生』
photo by antmoose
Category :
書籍・書評・レヴュー
タグ: books, cognitive science, philosopy, review, Rhetoric, アッシュベイビー, レトリック論を学ぶ人のために, 菅野 盾樹, 金原 ひとみ
2007-08-01
by
rui_mashita
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