筒井康隆『家族八景』感想

筒井康隆『家族八景』感想

筒井康隆『家族八景』読みました。

他人の心を読み取るテレパシー能力を持つ美女、火田七瀬が主人公の七瀬三部作『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』。『家族八景』はその七瀬三部作のうち第1作目で、家政婦の七瀬が題名通り8つの家族を訪れる話。1972年の作品。

僕の憶測だけど、発表当時はテレパシーで読み取った人間心理を描写する小説ってゆうのは画期的だったんじゃないかな。表面的には普通に見える家族が様々な問題を抱えてて、その内面と外面の差異が物語を進めていくってパターン。

家族の内面や主人公の心理にはいわゆる文学的な深みはほとんどなくて、その点についてはおもしろくもなんともないんだけど、テレパシー能力を文章におとしこんだ時、つまり七瀬が他人の心を読むときに “()” や “{}” を多用した表現手法を使うのはおもしろかった。

以下にその表現手法を引用してみる。七瀬が家政婦として雇われた高木輝男・直子夫妻の家にて、妻の直子が隣家の市川省吾に気がある事を知った夫の輝男は直子に対して嫌味を言いい、それに直子が言い返すシーン。

「わかってますよ。そんなこと」直子は夫の意図を察して、怒気をあらわにした。(いっそのこと、今すぐ行ってくるって言ってやろうかしら{(今、省吾さんはいない)(あとで行った方がいい)}「あとで行ってくるわ」そういってから彼女はすぐ、夫を刺戟し返すことにした。「今、ご主人はいないのよ」

引用元:筒井康隆『家族八景』 新潮文庫 p170

“()” の中の言葉は七瀬が読み取っている心理の部分で、実際に会話として言葉を発してはいない。また”{(今、省吾さんはいない)(あとで行った方がいい)}” の部分は紙面では下図のような分岐になっていて(紙面では縦書き)、心の中に浮かぶ選択肢を表してる。

家族八景 表現手法

こんな風に “{}” を使った表現方法は目新しくて、こんな使い方もあるんだなーとちょっと驚いた。

参考・参照

photo by 歌川広重『金澤八景・小泉の夜雨』